SOC 2
考察
SCS評価制度の公式解説書にSOC 2 Type 2が明記。クラウド事業者の営業・調達に何が変わるのか
公開日
SecureNavi株式会社 渋江 良彦
IPAのSCS評価制度の公式解説書でSOC 2 Type 2報告書が確認手段として例示されたことを踏まえ、制度の位置づけとクラウド事業者の営業・調達、事業成長への影響を解説します。

2026年10月28日、独立行政法人情報処理推進機構(IPA)は、サプライチェーン強化に向けたセキュリティ対策評価制度(SCS評価制度)の評価用ガイドと解説書を公開しました。
その中に、クラウドサービスを提供する企業にとって注目すべき記載があります。
クラウドサービス事業者のセキュリティ対策を確認する手段として、
「SOC2 Type 2報告書」が明記されたのです。
これは、SOC 2が義務化されたという話ではありません。
しかし、日本国内のサプライチェーンセキュリティ評価の文脈で、SOC 2報告書の活用が具体的に示されたことには意味があります。そして、この動きは単なるセキュリティ対策や監査対応の話にとどまりません。
SaaS企業にとって、自社のセキュリティへの取り組みをどのように顧客へ証明し、
商談や売上につなげていくか。
今回は、SCS評価制度とSOC 2の関係を整理しながら、その事業上の意味を考えます。
1. SCS評価制度の公式解説書にSOC 2 Type 2が登場
今回公開された「SCS-620 ★3・★4 要求事項・評価基準 解説書」21ページ、3.3.4節では、SCS評価制度への登録を希望する組織が、利用しているクラウドサービスの
提供事業者に対し、どのようなセキュリティ対策を確認するかが説明されています。
その確認方法として例示されているのが、サービス仕様、SOC 2 Type 2報告書、
クラウド事業者が開示する報告書などの確認や、事業者への個別照会です。
具体的な確認項目には、以下のようなものが挙げられています。
サーバ設置エリアへの入退室管理
管理者IDの発行・変更・削除
認証・アクセス制御
脆弱性の管理体制や管理プロセス
ソフトウェアの安全な構成やパッチ適用
クラウドサービスを利用する企業にとって、これらの対策が適切に実施されているかを、
自社で直接確認するのは容易ではありません。
そこで、クラウドサービス事業者が実施している対策を、報告書などを通じて確認するという考え方が示されています。
なお、同解説書の10ページ、3.2.1節でも、外部情報サービス等の対策を確認する方法としてSOC 2報告書が例示されています。
つまり、SCS評価制度に対応する企業が、利用先のクラウドサービスのセキュリティ対策を確認する際、SOC 2報告書を活用することが公式に想定されているということです。
2. SOC 2が必須になったわけではない
ここは誤解してはいけないポイントです。
今回の記載は、SCS評価制度に対応するために、クラウドサービス事業者が
SOC 2 Type 2報告書を必ず取得しなければならないという意味ではありません。
IPAが示しているのは、あくまでセキュリティ対策状況を確認する手段の例です。
サービス仕様の確認や、事業者が開示する別の資料、個別の照会によって確認する方法も
想定されています。
また、SOC 2 Type 2報告書があれば、SCS評価制度の要求事項をすべて満たしていると判断できるわけでもありません。
SOC 2報告書には対象となるサービスやシステム、監査期間、検証された内部統制の範囲があります。その内容が、利用企業の確認したい事項と一致しているかを判断する必要があります。
SOC 2報告書は、SCS評価制度への適合を保証するものではなく、クラウド事業者のセキュリティ対策を確認するための資料の一つです。
この前提を押さえたうえで、今回の記載の意味を考える必要があります。
3. SCS評価制度とSOC 2では、評価する対象が異なる
もう一つ、今回の解説書で注目したいのが、両制度の評価範囲の違いです。
SCS評価制度は、登録を希望する組織が利用するIT基盤などを対象に、セキュリティ対策の実施状況を評価する制度です。その適用範囲には、自社のサーバや端末、ネットワークだけでなく、業務で利用するクラウドサービスなども含まれ得ます。
一方、解説書の10ページ、3.2.2節では、登録希望組織が社外向けに提供するITサービスの提供基盤が、適用範囲に含めないものとして例示されています。
ただし、すべてのサービス提供基盤が無条件に対象外となるわけではありません。
適用範囲内のIT基盤との接続状況などに応じて、必要な保護施策を講じることが求められます。
ここで考えるべきなのは、
企業が自社のIT基盤についてSCS評価を受けることと、
その企業が顧客に提供するクラウドのセキュリティを第三者が検証することは、
必ずしも同じではないという点です。
SOC 2は、サービス提供組織のシステムに関する内部統制を、独立した監査人が検証する枠組みです。特にType 2では、特定の時点における内部統制の設計だけでなく、一定期間にわたる運用の有効性も検証されます。
そのため、クラウドサービスの提供事業者が、自社サービスに関する内部統制の状況を顧客に示す手段として活用できます。
SCS評価制度とSOC 2は、どちらか一方を取得すれば他方が不要になるという関係ではありません。
評価対象や目的が異なるからこそ、両者が補完的な役割を果たす可能性があるのです。
4. クラウド事業者の営業活動に、どのような影響があるのか
ここからは、今回の制度の記載を踏まえた今後の可能性について考えます。
例えば、大企業が新しいSaaSなどのクラウドサービスを導入しようとする場面を想像してください。
サービスの機能や価格が導入条件を満たしていても、そのサービスに重要な情報を預けて問題ないか、確認する必要があります。こうした確認には、導入を担当する事業部門だけでなく、リスク管理やセキュリティを専門とする部門(スリーラインモデルにおける第2線の役割を担う部門など)が関与することもあります。
SCS評価制度でも、登録を希望する企業が、利用するクラウドサービスのセキュリティ対策状況を確認することが想定されています。
そのため、クラウド事業者にとっては、自社がどのようなセキュリティ対策を実施しているのか、顧客に説明できることが重要になります。
そこで、SOC 2 Type 2報告書を保有していれば、監査対象となった内部統制について、
第三者による検証結果を提示できます。
もちろん、報告書だけですべての確認が完了するとは限りません。
追加の質問や、個別の確認が必要になる場合もあります。
しかし、顧客が求める情報を適切に提示できる体制が整っていれば、
セキュリティ審査を進めるうえで役立つ可能性があります。
これはSaaS事業者の営業活動にとって、重要な意味を持ちます。
例えば、次のような活用が考えられます。
新規商談では、 自社サービスのセキュリティ対策について第三者の検証結果を提示し、
顧客の懸念に対応する。
セキュリティ審査では、 顧客が確認したい事項と報告書の該当箇所を対応付け、
審査担当者が判断しやすい情報を提供する。
競合比較では、 機能や価格だけでは伝えられない、自社のセキュリティ管理体制や
継続的な運用状況を説明する。
既存顧客との取引では、 更新された報告書などを通じて継続的な取り組みを示し、
サービスの利用継続や利用拡大に関する判断材料を提供する。
重要なのは、SOC 2報告書を持っているという事実だけをアピールすることではありません。
顧客が何を懸念し、何を確認したいのかを理解したうえで、必要な情報を分かりやすく提示することです。
報告書の対象範囲や監査期間、指摘事項なども含めて適切に説明する必要があります。
また、報告書そのものの共有は、機密保持や利用条件に従って行わなければなりません。
SOC 2報告書を取得することと、その報告書を営業上の競争力として活用することは、別の取り組みなのです。
5. セキュリティを「守るためのコスト」から「選ばれるための投資」へ
今回のSCS評価制度の動きについて、もう少し経営の視点から考えてみます。
企業がセキュリティ対策を実施することは、情報漏えいやサイバー攻撃などのリスクから、自社の事業や顧客を守るために不可欠です。
ただし、BtoB SaaSなどのクラウドサービスを提供する企業にとって、セキュリティへの投資には、もう一つの価値があります。
それは、顧客から信頼され、選ばれるための経営資源になり得るということです。
どれほど優れたサービスを開発しても、顧客がそのサービスの安全性を確認できなければ、導入判断が進まないことがあります。
反対に、自社のセキュリティへの取り組みを客観的な根拠とともに示すことができれば、
顧客が安心して取引を判断するための材料になります。
その結果として、セキュリティ審査による商談の停滞を減らしたり、競合との差別化につなげたりすることが期待できます。
ここに、セキュリティマーケティングの考え方があります。
セキュリティ対策を実施するだけで終わらせず、その取り組みを信頼の証明へ変え、
顧客に選ばれる理由をつくり、売上や事業成長につなげていく。
SOC 2 Type 2報告書は、そのために活用できる手段の一つです。
もちろん、SOC 2報告書を取得すれば、必ず受注率が向上するというわけではありません。
実際に経営成果へ結びつけるためには、顧客がSOC 2報告書を求める頻度や、
セキュリティ審査に要する期間、審査を理由とした商談の停滞・失注などを把握し、
営業活動への効果を検証していくことも重要です。
今回のIPAの解説書への記載だけで、国内のSOC 2需要がどこまで拡大するかは分かりません。
しかし、SCS評価制度への対応が広がり、クラウドサービスのセキュリティ対策を確認する機会が増えるのであれば、SOC 2報告書を活用できる場面も増える可能性があります。
クラウド事業者にとって、それを新たな対応負担として捉えるだけでは、
もったいないのではないでしょうか。
自社が積み重ねてきたセキュリティへの取り組みを、どうすれば顧客に伝えられるのか。
その信頼性を、どうすれば営業活動や競争力の向上に活用できるのか。
そして、その価値をどうすれば売上や事業成長につなげられるのか。
セキュリティを、守るためのコストから、選ばれるための投資へ。
今回のSCS評価制度の動きは、日本のSaaSなどのクラウド事業者が、
セキュリティと事業成長の関係を改めて考える契機になるかもしれません。
SOC 2への対応を検討している企業の方へ
SOC 2を事業成長に活用するためには、第三者保証の取得だけでなく、
その前提となる内部統制の整備と継続的な運用が重要です。
SecureNaviの「Fit&Gap」は、SOC 2対応に必要な規程整備や証跡管理、
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※本記事の分析・考察および将来見通しは、IPA等の公開情報をもとにしたSecureNavi独自の見解です。制度に関する公式な内容は各公表資料をご確認ください。
参考資料
IPA「SCS評価制度 要求事項・評価基準」(解説書は2026年10月28日公開。掲載ページの最終更新は2026年10月29日)
IPA「SCS-620 ★3・★4 要求事項・評価基準 解説書」(2026年10月28日公開)、3.2.1節、3.2.2節、3.3.4節
AICPA & CIMA「SOC 2 Reporting on an Examination of Controls at a Service Organization」